倉吉市の食堂「天厦同人」は、コロナ禍の影響により閉店の危機に直面していました。しかしその運命は、意外な出会いによって大きく変わることになります。岡山市の広告制作会社に勤務していた阿出川直樹さん(60歳)は、数年前から釣りやキャンプで倉吉市などを訪れ、その豊かな自然に魅了されていました。偶然の機会に、倉吉市の移住相談窓口で「天厦同人」の後継者を求めていることを知り、自らの夢であった飲食店の開業を目指すことを決意しました。
〈「天厦同人」― カレー店再出発〉
「天厦同人」はもともと、山本みゆきさん(54歳)が両親が経営する食堂を手伝っていた場所でした。両親の高齢化により2012年に閉店した後、地域住民の要望を受け、2019年10月にカレー店として再出発しました。その名も「デリカリ カフェ」。店名には、「どんな人も平等に集い、同じご飯を食べる場所」という意味が込められています。主に日替わりランチを提供していた同店は、コロナ禍により客足が遠のき、売り上げが減少。高騰する原材料費の問題も相まって、再び閉店の危機に瀕していたのです。
〈きっかけは事業承継仲介サイト〉
そこで山本さんは、事業承継の仲介サイト「relay(リレイ)」に登録し、後継者を探すことにしました。そして、阿出川さんとの出会いが実現したのです。交渉の末、今年3月に契約を結び、「天厦同人」は「デリカリ カフェ」として生まれ変わりました。この移住者による事業承継は、県の支援プロジェクトにおいても「第1号」として注目される出来事となりました。
6月下旬に行われたプレオープンには山本さんも招待され、自分の店が新たな姿に変わる寂しさを感じながらも、落ち着く居心地と美味しいカレーに心から喜びを覚えたといいます。「デリカリ カフェ」は、ココナツミルクの香りが食欲をそそるチキンカレーや3種類のコーヒーを提供しています。開店当初から地域の人々に支持されることが期待されています。
この事例を受け、岡山県では後継者不在に悩む県内の事業者と県内移住に関心のある人たちをマッチングする事業承継プロジェクトを展開しています。特設サイトを通じて、後継ぎ候補を募る取り組みに加え、県内外でのイベントを実施し、地方での起業や事業承継型の起業を普及させる活動にも力を入れています。
阿出川さんは、「多くの人の支えがあり、人と人とのつながりを感じている。地域に根ざし、倉吉を盛り上げていきたい」と意気込んでいます。地域の憩いを守るため、倉吉市に新たな息吹が吹き込まれることでしょう。
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